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『災害時のペット同行避難支援体制の現状と
                                               自治体による同行避難支援の必要性』

災害時の同行避難に対応する自治体の準備不足が大きな問題となっています。

環境省は「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定し、自治体に独自のガイドライン策定、同行避難対応の為の備えを促していますが、現状では自治体の取り組みは遅れています。

令和3年に環境省が自治体へ災害時のペット同行避難を想定した指定避難所等の事前準備や設置等に関わるチェックポイントや、ペットとの同行避難者への対応で重点的に取り組むべき事項を記した「災害への備えチェックリスト」を配布した背景にはそんな自治体の取り組みの遅れがあります。

HUGの活動拠点である熊本県も未だ県独自のガイドライン策定は行っておらず、県のホームページに環境省のガイドラインを貼り付けているだけです。

ガイドラインを策定している自治体でも避難所でのペットの受け入れに関しては具体的な取り組みを行っている自治体はほんの一部です。

全国的に見ても「避難所任せ」の自治体が多く、自治体の担当部署に災害時のペット同行避難への対応を問い合わせると「避難所ごとの判断になります」と云う回答が多いのが現実です。

一方で避難所はペット同行避難の想定すらしていないのが現状で、ボランティアが那覇市の指定避難所60数ヶ所でアンケート調査をした結果ほぼ全ての避難所が同行避難自体を想定していないばかりか、環境省のガイドラインの存在すら知りませんでした。

自治体は災害時のペット同行避難に対して具体的な備えをしておらず、ガイドラインの「飼い主の自助」の部分だけに頼っているのが現状です。

取り組みが遅れている大きな理由。

それは自治体が災害時のペットの問題を未だに動物の問題として捉えているからです。

災害時のペットの問題は動物の問題ではありません。

それは被災者の問題です。

自治体には被災者支援としての災害時のペット問題への対応が求められています。

先ずは自治体が災害時に同行避難支援を行うべき理由と同行避難支援の考え方をしっかりと認識しておく事が必要です。

災害対策基本法に基づく「防災基本計画」には地域防災計画等における動物の取扱いに関する位置付けの明確化等を通じて、動物の救護等が適切に行うことができるような体制の整備を図ること、避難場所における家庭動物のためのスペースの確保に努めるものとする事が明記されています。

そして、それは動物愛護の観点、被災者である飼い主の避難を支援する観点、そして放浪動物発生の防止の観点から行われるべきであり、民間との連携とその活用に於いて実施するべき事であるとあります。

この様に「飼い主の自己責任」が基本であっても自治体には同行避難支援が法律とガイドラインによって求められています。

それ以前に、同行避難を「飼い主の自己責任」として放置しておけば、それは飼い主だけではなく、被災者全体の問題に発展し、最終的には復興の遅れにも繋がる事態となります。

避難所からペットを完全にシャットアウトしたり、何も対策を講じなければ熊本地震で問題となった車中泊やテント生活が増加し、それは即ち被災者の生命の問題となり自治体は対応を迫られます。

実際に熊本地震では自治体職員の方は、避難所内トラブルへの対応や、ペットが理由の車中泊、テント生活の解消に追われていました。

また避難所内でペットが原因の被災者同士のトラブルが起きれば避難所を運営する自治体職員が対応する事になります。

更に同行避難支援は避難所や同行避難した飼い主だけが対象ではない事も理解しておくべきです。

ガイドラインにある、放浪動物を作り出さず、動物に寄る人の生命・身体・財産への被害や生活環境保全上の支障の発生を防止する事と云う考え方に基づけば、同行避難支援は避難所内のみだけではなく、被災地全体に必要だと云う事になります。

熊本でも、地震で迷子になった飼い猫を含めた猫たちが繁殖し、糞害による環境悪化が問題となっていますし、明らかに遺棄された犬も地震後には見られました。もし、そのまま放置をしておけば、人への咬傷事故の危険性もありました。

地域の環境悪化や住民の生命、財産への被害の恐れがあればやはり自治体は対応を迫られます。

災害時の同行避難が上手くいかなければ、ただでさえ様々な対応に追われる自治体の仕事が増えるんです。

そうならない為にも自治体は平常時からガイドラインに沿った災害時のペット同行避難支援の「枠組み」を作っておく必要があります。

そして事前に支援の「枠組み」を作っておけば災害の混乱の中で慌てて対応するよりも効果的な対応が可能となり、それが結果的に災害時の自治体の仕事を減らす事にも繋がります。

ペットを飼育している世帯が、もし 100 世帯中、2,3 世帯ならば災害時のペット同行避難を飼い主だけの問題として捉えてもいいのかもしれませんが、実際はそうではありません。

住民の3割、4割の人たちがペットを飼育しています。

だから、災害の度にペットの同行避難が大きな問題になっているんです。

それだけ多くの人たちがペットを飼育している今、災害時のペット同行避難が被災者全体の問題となるのは当たり前なんです。

もちろん災害時には自治体の業務は多岐に渡ります。

自治体も、そして自治体の職員の方も被災します。自治体が災害時に同行避難支援を行う事は非常に困難です。

でも、同行避難支援を行わなければ被災者全体の問題に発展し、自治体が対応せざるを得ない状況が生まれます。

だからこそ、災害時のペット同行避難への対策の鍵は「平常時からの枠組み作り」と「民間との連携とその活用」なのです。

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『発災直後』

熊本地震では発災直後、多くの避難所で避難所内に同行避難して来た犬や猫たちがいました。

でも徐々に動物達は屋外へと出て行かざるを得ない状況が生まれました。

一番大きな理由は「衛生上」の問題とされていましたが、その判断の根底には避難所内でのクレームやトラブルがあったのは間違いがない事実です。

実際に避難所内で「人と動物とどっちが大事だ!!鳴き声がたまらん!」と大声を上げていた男性を見た事もあります。

避難所の運営ではいくつもの問題が次々と起こります。

高齢者、障害がある人達への対応、避難者の衛生、住環境の改善の問題、避難者同士のトラブルも起きれば、食料の確保や配布にも手を取られます。

女性の下着が盗まれたり、金品の盗難。

また、避難生活が長引けば避難所の運営のやり方も変えて行かなければいけないし、全国から来てくれるボランティアの調整も大変な作業です。

そんな中で「動物」が避難所内にいる事でクレームが発生したり、トラブルが起きれば、運営側としては「動物」に出て行ってもらう事が一番簡単な選択肢となるのは仕方がない事なのかも知れません。

でも自分が感じたのは「動物」が避難所内にいる事で起きたクレームやトラブルの「本当の理由」は「動物」そのものではないと云う事でした。

もちろん「衛生上」の理由やアレルギーの様に、「動物」がその理由になっている事例もありましたが、クレーム、トラブルの根底には「日常の全てを失った」被災者の人たちの「どこにもぶつける事が出来ない気持ち」があった様に感じました。

避難所では多くのボランティアに助けられている被災者の人たち、例えば配給される食事が三食同じコンビニ弁当でも、避難所に不手際があったとしても、なかなかその事には物言う事は出来ない状況です。

たくさんの人たちに助けられているのだから、不満があっても言えない状況です。

「日常の全てを失い」「明日をも見えない」「不満も言い辛い」状況。

それが「動物」たちに向かってしまった様に感じられて仕方ありませんでした。

これは「災害時」だけの問題ではない様に思います。

ではそんな状況を生まない為にどうすればいいのか?

普段から「人と動物たちが共生する社会」を作る事が一番の解決策ですが、それは一朝一夕に出来る事ではありません。

ですが、避難所内の「同行避難した飼い主」と「そうでない人々」の双方に、「同行避難」の先行きを具体的に明示する事で、トラブルやクレームを少なくする事は可能だと思います。

今回の熊本では民間団体の「コンテナハウス」、避難所併設の一時預かり施設、動物病院での一時預かり等、いくつかの「同行避難」支援の形が明確になりました。

避難所内の「同行避難した飼い主」と「そうでない人々」の双方に、「何時何時までは避難所内に動物たちはいます、それからはこれだけの選択肢があって、避難所内から動物達は退去します」と明確に示す事で、飼い主たちには「選択肢」を示し、そうでない人々には「期限」を示す事が出来ます。

「選択肢」が見えれば飼い主の不安も少なくなるし、「期限」がわかれば飼い主でない人たちも「お互い様だから」と支えてくれます。

そうすればトラブルやクレームを少なくする事は可能だと思います。

実際に僕が支援していた益城町総合体育館ではそれが出来ました。

発災直後には避難所内に「同行避難」した「動物たち」は入って来ます。

発災直後の一定期間、避難所内でのトラブルやクレームを減らす事を考えて、その期間内に次の「同行避難」対策を行い、次の段階へ進めて行く事が大事だと思います。

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