
《譲渡拡大、広域譲渡》
譲渡拡大は必要な事です。
SNSはそれに大きな貢献を果たした側面もあります。
でもSNSによる民間団体からの「広域譲渡」には大きな危険性と、団体の責任が伴う事をしっかりと認識するべきです。
環境省の「適正譲渡における飼い主教育」には「保護動物と飼い主になろうとする人とのマッチング」、譲渡の際、保護動物を見る前に「譲渡前講習会」を行う事が重要なポイントの一つとして挙げられています。
「マッチング」はリターン、飼育放棄、遺棄、不適正飼養者の拡大につながる事を防ぐ為には重要な事で、里親希望者のライフスタイルや生活環境によっては「飼いたい犬が飼える犬」とは限らないからです。
流行犬種が欲しいとプードルを希望する家庭に譲渡したが、トリミングにこんなにお金がかかると思わなかった、これ以上飼うのが難しいと相談。
「病気があってもかわいそうな犬を救いたい」と希望する主婦に老犬を譲渡したところ、病気の治療に多額の費用がかかって家庭内で問題が発生し夫からセンターに戻すよう言われている。
それが「広域譲渡」でなくともそんな実例があるのです。
保護動物を見る前に「譲渡前講習会」を行う事は「鉄則」とされていて、実際に譲渡候補動物に会ったり、触れ合ったりしてしま うと、目の前のかわいらしさに夢中になって冷静に飼え るかどうかの判断が出来なくなるのが理由とされています。
これも適正なマッチングに影響を及ぼすからです。
SNSを通じた「広域譲渡」ではこれらの事を厳格に行うのは難しい事です。
確かにSNSでの譲渡拡大により、殺処分は減ったでしょう。
「じゃあどうするんだ、そのまま処分されてもいいのか?」
そんな意見も多いでしょう。
でも、適正な譲渡が行わなければ、リターン、飼育放棄、遺棄、不適正飼養者の拡大につながる可能性が高くなります。
実際に譲渡直後の脱走は後を絶たず、SNSで「助けてください、命を繋いでください」と叫ぶ人々の内どれだけの人々がその後を知っているのでしょう。
保護団体のフォローも「広域譲渡」では難しく、譲渡後脱走した犬の情報をHPに上げない保護団体も実際にいました。
また、もし適正に、マッチングを行っていれば、流行犬種が欲しいとプードルを希望した家庭や、「病気があってもかわいそうな犬を救いたい」と希望する主婦に適正な譲渡が出来て、命を救えた可能性がある事を忘れてはいけません。
これらの事を総合的に考えれば、「譲渡」を含めた動物保護活動は「広域」ではなく、「地域密着」であるべきだとHUGは考えます。
地域と密着する事で、顔を合わせた適正な譲渡を行い、幸せになった命を地域のボランティア、市民が見守り続ける事は動物愛護意識がその地域に拡がり、根付いて行く事にも繋がると思います。
今のSNSでの安易な「譲渡拡大」は「ゼロ」の弊害の一つだと感じています。
「ゼロ」に追われた「譲渡拡大」がもし、リターン、飼育放棄、遺棄、不適正飼養者の拡大を招いているのであれば、それは「悲しむ命ゼロ」とは正反対の方向です。
命の期限に対して、SNSを見ているだけで過剰な反応をする一般の人たち。
マッチング、適正譲渡よりも、引き出す事に価値を見いだす保護団体。
確かに目の前の命。
目の前にいる命を助けたい故の行動でしょう。
でも、命の期限から救う事のみが優先される結果、リターン、飼育放棄、遺棄、また不適正な飼い主を増やしていてはいつまでも悲しむ命が目の前に居続けるのです。
例え、リターン、飼育放棄、遺棄から再び保護したとしても、たらい回しにされる命が本当に幸せなのでしょうか?
今「ゼロ」が犬や猫たちを追い込もうとしています。
私たちは立ち止まる必要があります。
私たちの望みは何なのか?
犬と猫たちの幸せとは何なのか?
いつまでも保護譲渡を続けて行くつもりなのか?
このまま「ゼロ」に追われて進めば、「ゼロ」が「善意と云う名を纏った新たなペットショップ」を作り出す事になりかねません。
熊本市動物愛護センターの取り組み。
全国に先駆けて殺処分ゼロを目指し、実現した熊本市動物愛護センターの取り組み。
約20年前。
熊本市動物愛護センターは殺処分ゼロを目指すと宣言しました。
「殺処分ゼロは所詮夢物語」
それが当時の常識でした。
その後熊本市動物愛護センターは殺処分ゼロを実現しました。
熊本市は「夢物語」とされていた殺処分ゼロを如何にして実現したのか?
特別な方法があったのか?
HUGは幾度となくセンターに取材に行きましたが、取材を通して感じたのは熊本市動物愛護センターが殺処分ゼロを実現した方法は「特別」な事ではなく、「当たり前の事」を「当たり前に」実行したと云う事でした。
その一「保護動物の公示書の詳細化」
当時多くの自治体では収容された動物たちの公示内容はその特徴をごく簡単にデータ化した内容であり、犬種、毛色、性別、体格、推定年齢等が文書で書かれているだけでした。
この文書での公示内容には表現力の限界があり、必ずしも返還率のの増加に繋がっていませんでした。
そこで熊本市は保護動物の公示書に「写真」を付け、更に多くの人の目に触れる様にインターネットを活用した情報発信を行いました。
現在では多くの自治体が採用している方法ですが、当時はこのような取り組みをしている自治体は少なく、熊本市動物愛護センターはこの取り組みを通じて保護動物の返還率を上げ、飼い主が現れなかった時に新しい飼い主へ譲渡する譲渡率も上がったのです。
熊本市動物愛護センターへ行く度に、ふるさと納税で莫大な寄付金を集めて巨大なシェルターを作る。そんな「特別な事」ではなく、「当たり前の事を当たり前に実行し、継続する」それが殺処分ゼロへの唯一の道であると感じます。
写真は現在の熊本市動物愛護センターに張り出されている保護動物の情報です。
若手の職員さんが工夫して作ったそうです。
殺処分ゼロへの「強い決意」と「収容されている動物たちへの愛情」を感じます。
「特別な事」ではなく、「当たり前の事を当たり前に実行し、継続する」それが熊本市動物愛護センターの取り組みであり、殺処分ゼロへの道なんです。
※参考文献 殺処分根絶に向けての地域による取り組み 佐藤匡鳥取大学
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